第9話 神業の技術
ケンが見せてくれたヘコミ修理のデモンストレーションはかなり神業に近かった。
だって表からはもちろん鉄板なので工具の動きが全く見えない。
でもミリ単位での調整が出来ないとヘコミはキレイに直らないらしい。
先はかなり長くなりそうだ。
そうこうしているうちに先ほどのデモンストレーションを見てブチきれて社長室に連れて行かれたEさんがスタッフと一緒ににこやかな顔で戻ってきた。
どうやら和解できたらしい。こっちも一安心した。
よーし、気分を入れ替えて練習するぞ!
まず始めのレッスンはボンネットの上に油性マジックで点を書いてその点を裏から工具で触る練習。
そんなの楽勝でしょ。と思いきやこれがマジで難しい!!全く押せない!
その前に今工具でどこを押しているのかもさっぱり分からない!!
「チキショー!なんでこんな事もできねーんだよ!」
イラつけばイラつく程、もっと分からなくなっていった。
こういう単純作業をもっとも苦手とする僕はすぐに外の自販機にジュースを買いにサボりにいた。
すると同じくM氏が休憩をしていた。
「Mさんは大阪からでしたっけ?」
「はい。大阪で磨き屋をやっています。」
「なんでデントリペアをやろうと思ったんですか?」
「そりゃあ、今のままでは先が見えてるので何か他にも出来ないかと思ってね。」
なるほど。本当に人生いろいろだ。ちょっと大人になった気分になった。
俺はこの先、どんな人生を歩んでいくんだろう。
そんな事を考えながらまた練習にもどる。
永遠と毎日8時間、そのマジックの点を押す練習。
まさにエンドレス。
でもこれが基本中の基本なのでこれが出来ないと次のレッスンに進めないらしい。
でもさすがにこれだけを毎日やりながら3日目に入った時はさすがに不安になった。